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第586号 2007(H19).05発行

Click here for PDF version 第586号 2007(H19).05発行

農業と科学 平成19年5月

本号の内容

 

 

微量元素よもやま話[6]
ゲルマニウム

京都大学名誉教授
高橋 英一

周期律表から予言された元素ゲルマニウム

 1869年,メンデレーフは当時知られていた60余りの元素をもとに周期律表を作成し,その中で将来発見の可能性がある11種の元素の存在を予言しました。中でもアルミニウム(Al)とインジウム(In)の間,およびケイ素(Si)とスズ(Sn)の間に存在を予想した未知の元素のエカアルミニウムとエカケイ素については,性質を詳しく説明し,それらの発見の近いことを予言しています。
 果たせるかな6後の1875年,フランスの化学者ボアボードランは,メンデレーフのエカアルミニウムと性質の一致する新元素を閃亜鉛鉱中に発見し,祖国フランスの古名ガリアに因んでガリウム(Ga)と命名しました。

 1885年秋,フライブルグの近くの鉱山で銀を含む新しい鉱物が発見されました。発見者のフライブルグ鉱山学校の鉱物学教授のヴァイスバハは,銀のラテン名”argentum”に因んで「アルジロダイト(Argyrodite)」と命名し,同僚の化学教授のヴィンクラーに鉱物の正確な組成を決定するよう依頼しました。
 ヴィンクラーは分析の結果,銀75%,イオウ18%,という平均値を得ましたが,100%にならないので何度も分析を繰り返しました。しかし常に7%近くが欠けていることから,この鉱物には未知の元素が含まれているに違いないと結論しました。彼は試行錯誤のあげく,1886年2月新元素の硫化物の沈澱を得,これを水素気流中で加熱して新元素を単離することに成功しました。そしてこの新元素は,ヴィンクラーの祖国ドイツのラテン名ゲルマニアに因んでゲルマニウム(Ge)と命名されました1)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 ゲルマニウムの性質は表1にみられるように,メンデレーフの予言したエカケイ素の性質と驚くほど一致しており,周期律表のケイ素とスズとの間にあった空席は実在の元素によって埋められました。周期表の第Ⅲ族と第Ⅳ族に隣り合って,ライバルのフランスとドイツの国名を冠した元素が並ぶ結果になったのは,偶然とはいえ象徴的です(図1)。

 しかしこの両元素はその兄に当たるアルミニウムとケイ素が地殻の主要元素であるのに比べて存在量は極微量であり(クラーク数はガリウム0.001%39位,ゲルマニウム0.00065%43位),その後長らく注目されることはありませんでした。ところが1942年にアメリカのNDRC(国防研究委員会)が,電子機器に必要な半導体の素材としてゲルマニウムがすぐれていることをみいだすと1),商業的に重要な価値をもつようになり,以後電子工学の分野で利用されるようになりました。

ゲルマニウムとの出会い

 筆者はかねてからケイ酸含量の著しく高い植物のケイ酸吸収機構に興味をもっていましたが,エカケイ素と名付けられただけあってケイ素と化学的性質がよく似ているゲルマニウムを使って,比較検討してみたら面白いだろうと考えるようになりました。それにまたケイ素の放射性同位元素(31Si)は,半減期が2.62時間と極めて短く利用しにくいが,ゲルマニウムには長寿命の放射性同位元素(68Ge,半減期280日)があるので,手段的にも一歩前進できるだろうという期待もありました。

 こういうわけで1970年頃からゲルマニウムを使う実験にとりかかりましたが,たまたま長野県のトランジスター工場の廃液流入田で水稲に被害が発生し,その原因が廃液中のゲルマニウムにあるらしいという報告が,茨城大学の茅野充男氏(現東大名誉教授)らによってなされました2)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 この報告は,イネはケイ酸と同じようにゲルマニウムの吸収性も大きいこと,しかしケイ酸と異なり体内に集積したゲルマニウムはイネに対して毒性を呈することを示唆しており,大変興味深く思いました。そしてこれに刺激されて実験を急いでいた矢先,文部省在外研究員として一カ年留守にすることになりました。

 そこで植物のケイ酸栄養について共同研究をしていた岡山大学の三宅靖人氏(現岡大名誉教授)に,イネ,トクサ,ワラビ,スギナなどのゲルマニウムに対する生育反応について,児島湾干拓地の実験農場で水耕試験をしてもらうことにし,筆者は留学先のアラバマ州マッスルショールズにあるTVA(テネシー峡谷開発局)肥料開発センターのグリーンハウスで,各種作物のゲルマニウムに対する生育反応を,水耕,砂耕,土耕の3段階で検討することにしました。

 さらに1972年に帰国してからは,京大農学部の温室で大学院生であった蕭聡明君(昭野聡一氏,現多木化学研究所)とキウリ,インゲンマメ,アサガオ,ヒルガオなどの蔓性植物のゲルマニウムに対する反応を調べました。また当時ラジオアイソトープ研修所の天正清氏らが,放射性ゲルマニウムを使って植物のゲルマニウム吸収について研究されていたので,その技術を教えていただいてトレーサー実験もあわせて行いました。

 このようにして三つの異なる場所,三種類の栽培方法,多数の植物について実験を重ねた結果,いくつかの新しい興味ある現象がみつかりました。その概略をつぎに紹介します。

ゲルマニウムに対する植物の反応

 第1にゲルマニウム(二酸化ゲルマニウムの粉末あるいは水溶液を使用)の吸収性はケイ酸の場合と同様,植物の種類によって著しく異なり,ケイ酸吸収性の大きい植物はゲルマニウムの吸収性も大きい傾向があります。しかしゲルマニウムはケイ酸と異なり,植物体にある程度(数百ppm以上)蓄積すると障害を呈します。このゲルマニウム過剰に対する感受性は,ゲルマニウム吸収性の大きい植物,すなわちケイ酸吸収性の大きいケイ酸植物ほど高い傾向があります。なかでも実際に被害のでたイネはゲルマニウム吸収性が非常に大きく,過剰障害のでやすい作物でした。

 第2にゲルマニウムの吸収はケイ酸の存在によって著しく抑制され,この効果はケイ酸吸収性の大きい植物で顕著です。たとえば強酸性土壌を,一方は炭酸カルシウムで,他方はケイ酸カルシウムで同一pHに中和し,ゲルマニウムを添加して各種の作物を栽培すると,ケイ酸カルシウム系列の作物とくにイネは,炭酸カルシウム系列にくらべて障害は軽く(表2参照),ゲルマニウム吸収量も低くおさえられていました(TVAでの実験)。

 第3にケイ酸植物のゲルマニウムの吸収様式はケイ酸のそれとよく似ており,積極吸収です。たとえばイネのゲルマニウム吸収はケイ酸の場合と同様,蒸散を抑制しても影響を受けず活発に行われます(外液のゲルマニウム濃度は時間と共に著しく低下する)。またイネのゲルマニウム吸収はケイ酸の場合と同じく,NaCN,DNP,2,4-Dなどの代謝阻害剤によって強い阻害を受けます。

 第4に植物のゲルマニウム吸収における特異性は,ケイ酸の場合と同じく根部に局在しています。ケイ酸吸収性に乏しいトマトの地上部を切除し,茎基部からの溢泌液のケイ酸濃度を測定すると,最初の間は外液より低く,かなり経ってからようやく外液濃度に達するのに対し,イネの溢泌液のケイ酸濃度は短時間に外液より著しく高く濃縮されることが認められています。それと同様にイネの溢泌液のゲルマニウム濃度も短時間に外液の数十倍に濃縮されることが,放射性ゲルマニウム(68Ge)を用いた実験で確認されました(表3)。

 さらに根部を切除したイネ地上部をケイ酸を含む溶液に浸した場合は,ケイ酸は吸水にともなってとりこまれるに過ぎず,イネの特徴であるケイ酸の積極吸収性はみられませんが,ゲルマニウムの場合も同様で,根部を切除した地上部のゲルマニウムの吸収は激減します(表4)。

 また供試した蔓性植物のうちキウリ,インゲンでは,水耕液に1ppmのゲルマニウムが存在すると伸長は阻害されましたが,アサガオ,ヒルガオでは10ppmのゲルマニウムによっても伸長は殆ど阻害されませんでした。これらの植物ではゲルマニウムは根部にとどまり,地上部への移行ごく僅かでした。地上部の伸長が阻害されなかったのはこのためと思われます。

 そしてヒルガオとアサガオではイネと反対に,根部を切除した場合の方が,地上部へのゲルマニウムの取り込みは多くなりました(表4)。さらに代謝阻害剤は,ヒルガオに対しては初期にはゲルマニウムの吸収を低下させるよりも,むしろ対照(阻害剤無添加)にくらべると若干増加させることが,放射性ゲルマニウムを用いた実験で認められました。

 このように根の正常な機能がイネではゲルマニウムの積極吸収に,ヒルガオやアサガオでは吸収抑制に働くという,正反対の現象がみられるのは非常に興味深いことです。

 以上に紹介したいくつかの現象から,つぎの二つを強調しておきたいと思います。一つは選択吸収性は植物の種類によって非常に異なり,それが植物の生態的特性(たとえば異常な化学的環境,ここではゲルマニウム汚染に対する耐性の違い)の主因をなす場合があるということです。

 いま一つは元素のin vitro(生体外)での性質の類似性は,in vivo(生体内)でもある程度の類似性を発揮する場合があるということです。ケイ酸植物はケイ酸を吸収集積する特性をもっているが,ケイ素と化学的性質の類似したゲルマニウムに対しても,吸収の面では同じ様な行動をします。

 土壌中のケイ素の存在量は33%であるのに対し,ゲルマニウムはその33万分の1の0.0001%に過ぎないので,植物がゲルマニウムに接する機会は極めて少ないと思われますが,ケイ酸植物の根に存在するケイ酸を取り込む機構は,ゲルマニウムに遭遇したときこれを異物と認めずに受け入れてしまいます。

 しかし体内に入ってからはケイ素と異なり,ゲルマニウムの集積した部位は褐変し,甚だしい場合は枯死し,ゲルマニウムは明らかに異物として行動します。植物はゲルマニウムをケイ素と同じように吸収しても,ケイ素の代替物として自己の体制に組み入れることはできないでいるのです。

植物のケイ素栄養研究へのゲルマニウムの利用

 植物のケイ素栄養研究の一つに,植物の種によってケイ素含量に大きな違いがあるのは何故かという問題があります。これには植物の養分選択吸収性が関わっていますが,その仕組みの研究には放射性同位元素がよく使われました。

 ケイ素にも人工放射性同位元素(31Si)がありますが,半減期は2.26時間と極めて短いので実用的でありません。しかしケイ素のかわりに吸収の面でよく似た行動をするゲルマニウムを使えば,ゲルマニウムには長寿命の放射性同位元素があるので便利です。また放射性ゲルマニウムを与えた植物のラジオオートグラフをとって,吸収されたゲルマニウムの体内分布を調べることも可能です。

 今一つは,吸収されるとケイ素と違って害作用を呈するというゲルマニウムの性質の利用です。これで植物のケイ素吸収性の程度を簡単迅速に知ることができますが,その興味深い応用の例として,岡山大学の馬建鋒氏らによる「イネのケイ酸吸収欠損変異体の単離」について紹介しておきます4)The following is a list of the most common problems with the "C" in the "C" column.

 同氏らはイネ種子をアジ化ナトリウムで処理して突然変異を誘起させ,ゲルマニウム耐性を検定することによって,多数の種子から幾つかのゲルマニウム耐性(ゲルマニウム吸収性に乏しい性質)をもった変異体を単離することに成功しました。この突然変異種はもとのイネに比べて,リン酸やカリウムの含量に差はないがケイ酸含量は著しく低いことが認められました。そしてそのケイ酸吸収はNaCNや低温処理による阻害を受けなかったので,この突然変異種はケイ酸の積極吸収性のみを失ったものであることが推察されました。

 イネなどの特異的なケイ酸集積種にはケイ酸トランスポーターの存在が予想されますが,この突然変異種はトランスポーターやそれに関与する遺伝子の解析などの研究に有益であり,今後の進展が期待されます。

 ゲルマニウムはケイ藻にも特異的阻害作用を呈しますが,これは海洋におけるケイ藻の生態を調べるのに利用されています。すなわち海洋に存在する光合成生物の中,ケイ藻のみをゲルマニウムで選択的に抑えることによって,海洋で行われる炭酸固定の中にケイ藻の占める割合を推定することができますが,それによるとケイ藻の寄与率は50%以上にもなるということです。また海苔の養殖に大きな被害をもたらすケイ藻の繁殖防止剤としてのゲルマニウムの利用もあります。

マスメディアに登場したゲルマニウム

 昭和60年頃だったと思いますが,街角でたまたま「ゲルマニウム温泉」や「ゲルマニウムクリニック」の看板を目にして驚いた記憶があります。調べてみるとゲルマニウムは,水銀やカドミウムによる公害病やガンに効く「神秘の元素」とうたわれ,健康関連商品としてブームになっているらしいことが分かりました。

 それを裏書きするように昭和61年には,「ゲルマニウム飲料水は万病に効くと宣伝して摘発」とか,「ゲルマニウム療法で死者-ブームの裏に無機性商品横行」などの記事が新聞に載るようになりました。そして昭和63年10月には厚生省から各都道府県知事宛に,「ゲルマニウムを含有させた食品の取り扱いについて」という通達が出されました。

 その中には”近年,ゲルマニウムを含有させた食品が健康食品として流通・販売されているが,これを継続的に摂取した結果生じたものと疑われる健康障害の発生が報告されている。このため厚生省では,「食品中に含まれるゲルマニウムに関する専門家会議」を設け検討を行ってきたが,酸化ゲルマニウムを含有させた食品の摂取と,同食品を継続的に摂取した者に散見される人の健康障害の間には,臨床的データから強い因果関係があることが認められ,動物実験においても人と同様の健康障害が発生することが認められるため,酸化ゲルマニウムを含有させた食品を継続的に摂取することはさけること。”と書かれています。

 これを契機にブームは沈静化しましたが,ゲルマニウムという言葉がマスメディアから消え去ったわけではありません。たとえば平成10年の第119回芥川賞受賞作品の題名は奇しくも「ゲルマニウムの夜」でした。

Conclusion

 自然界は鉱物界と生物界に大別されますが,それらは原子というもので組みたてられていると化学は教えています。われわれは森羅万象がどのような原子の組み合わせでできているかについては,限られた知識しかもっていません。しかし原子の種類がどれだけあるかは知っています。それは元素の周期律表にまとめられています。

 周期律表を眺めていると,元素というものが物理的,化学的類縁性によって結ぼれた一大家族として存在していることがわかり,これらによって構成される世界には,おのずから一定の秩序,原則が存在するであろうことが感じられます。ただ周期律表には元素の生物性(生物との関わりについての情報)がもりこまれていないので,生物界との関連をイメージしにくい憾みがあります。

 分析化学の著しい進歩によって,現在周期律表の元素の大部分が生物体中に見出されています。しかし生物に対しでもつ意味がある程度知られている元素の数は,全元素の三分のーもありません。とはいえ先端技術産業の進出にともなって,元来微量存在するに過ぎなかった元素が人間によって局所的に濃縮され,その結果未知であった元素の生物性の一端が明るみに出ることがあります。ここで紹介したゲルマニウムはその例です。

 ゲルマニウムはケイ素と化学的性質が似ているだけでなく,吸収の面でもケイ素と同様の行動をとるという生物的類似性をもっているということが明らかにされました。吸収という面での類似性は,カルシウムとストロンチウム,イオウとセレン,モリブデンとタングステンなどの兄弟元素の間でも認められています。

 生物もまた類縁関係に結ばれながら進化してきました。その過程で,とくに上陸後,生物はいろいろな元素と新しい関係を持つようになりました。必須元素もそのような関係の一つですが,今日認められている必須元素の全部がはじめからあったのではなく,進化の過程で必須性を獲得していったと思われる元素もあります(たとえばホウ素)。

 生物と元素の関わり合いにはどんな法則性があるのか,机の前に貼り付けた周期律表を時々眺めながら考えています。

References

1)ウィークス/レスター著大沼正則監訳:
  元素発見の歴史3,ゲルマニウム 朝倉書店(1998)

2)茅野充男,田中孝之:土肥講演集 16,64(1970)

3)高橋英一,蕭聡明,三宅靖人:
  ケイ酸植物のゲルマニウムに対する反応の特異性について,日土肥誌47,183-190,191-197,217-22(1976)

4)J. F. Ma,K . Tamai,M. Ichi,and G. F. WU:
  A Rice Mutant Defective in Si Uptake, Plant Physiology 130 2111-2117(2002)

 

 

水稲育苗箱全量基肥専用肥料
「苗箱まかせ」による低コスト栽培の実証

群馬県藤岡地区農業指導センター
高橋 行継

Introduction

 水稲育苗箱全量基肥専用肥料「苗箱まかせ」による水稲育苗箱全量基肥(以下,箱全量)栽培は,本田生育に必要な肥料成分を育苗箱に培土と共に播種時に全量投入し,本田施肥を省略する技術である(庄子 1999)。本技術は本田での施肥作業が追肥を含め不要となり,省力効果が高いことは言住もが言忍めるところである。しかしながら,コスト削減効果に関しては必ずしも十分な理解がなされているとは言い難い。

 いわゆる「本田一発施肥」と称される水稲肥料は多少の減肥が可能とはいえ(高橋ら 2006),通常の化成肥料よりも単価の高い肥効調節型肥料を配合するために肥料価格が高くならざるを得ず,肥料コストの上昇は避けられない。

 このことが念頭にあるためか,技術者の中には肥効調節型肥料100%の苗箱まかせを利用すると栽培コストの一層の上昇を招き,経営面からみた普及性に対して疑問を抱くといった誤解をしている場合が少なからず見受けられる。そこで,筆者がこれまで実施してきた箱全量試験をもとにコスト削減効果に関して試算を行い,低コストの実証を行ったので報告する。

2.調査方法

 今回は施肥関係経費の比較のみにとどめることにし,試算に際しての条件設定は以下のとおりとした。まず,箱全量区には「苗箱まかせNK301-100」(以下,苗箱まかせ)を利用した。本肥料の窒素-燐酸-加里の成分比率(以下,3成分比)は30-0-10%である。

 次に標準区は群馬県で普及している基肥+追肥(概ね出穂20日前に1回)の施肥体系とした。基肥はふれあい化成254(3成分比:12-15-14%),追肥はNK化成(同:17-0-16%)を利用するものとした。なお,標準区で設定したこれらの肥料は,館林市農業協同組合管内(群馬県)の農家で稲作肥料として2004年に最も広く使用されていた標準的な銘柄である。また,これらの肥料の1kg当たり単価は同農協の2004年の組合員予約価格から算出した(表1)。

 試算の対象品種はあさひの夢とした。群馬県のあさひの夢の栽培技術指針では,基肥は窒素成分で5kg/10a,追肥は同2kg/10aであり,この施肥量を基準とした試算を行った(表2)。箱全量区の施肥量は標準区の基肥と追肥の合計窒素量の40%減(高橋・吉田 2006),10a当たり使用箱数を30枚として算出した。

 なお,今回は施肥関係の経費中,肥料本体の経費および苗箱まかせの施肥に必要となる新規機材の部分について着目し,以下の検討を進めた。

3.調査結果

 結果を表3および図1に示した。播種作業を小型の手動播種機で行っている農家では,多くの場合施肥作業にも兼用可能であるため特に問題はないが,播種プラントによる機械播種を行っている農家等では施肥機の装備が新たに必要になる。現在,後付けが可能な専用施肥機が9万円強で市販されている。この施肥機を15年償却として,県内の中規模稲作農家で育苗する500箱(水稲作付面積1.6ha)を播種すると仮定した場合,経費増加は370円/10aであった。基肥部分のみで比較すると,増設する施肥機の経費が含まれるために3%の経費増となるが,追肥の必要がないことから標準区対比で17%のコスト削減が可能となる。なお,手動の小型播種機等を利用して施肥を行う場合には新たな設備の導入は不要であり,27%の削減が可能であった。

Discussion and Summary

 被覆肥料自体の単価は比較する化成肥料にもよるが,今回対象とした基肥用化成肥料の約2.7倍とかなり高価である(表1)。しかし,窒素含有率が2.5倍と高く,さらに肥料効率も高まることから35~40%の減肥が可能である(北村ら 1995,庄子 1999)ことから実際に使用する肥料の量は少なくて済む。試算では専用施肥機の設置に伴う経費増加を考慮しても,標準区対比で17%のコスト削減が可能であることが明らかになった(表3)。さらに窒素成分含有率の高い苗箱まかせN400-100(3成分比:40-0-0)を使用すれば,同35%のコスト削減が可能である。

 なお,苗箱まかせは301,400の両タイプ共に燐酸成分を含まず,加里成分を含む301でも窒素成分に対して加里の成分比率は低く抑えられている。このため,水田にこれらの不足成分をどのように施肥していくかが大きな課題であった。このことは栽培技術のみならず,低コスト・省力化を論じる上でも重要な問題である。しかし,前報(高橋 2007)で紹介したとおり,稲わらを全量鋤込むことによって,本肥料単独の連続栽培を行っても3~4年程度の比較的短期間であれば,燐酸,加里の土壌中の成分不足は発生せず,収量・品質も標準体系に対して概ね遜色がないことが明らかになっており,先述の問題点はほぼ解決できている。

 以上の結果から,苗箱まかせを利用した箱全量栽培は稲作の施肥作業の省力化のみならず,低コスト栽培にも貢献できることが明らかになった。

works cited

●北村ら:1995,
 肥効調節型肥料による施肥技術の新展開1-水稲の全量施肥技術-,土肥誌,66,71-79

●庄子:1999,
 環境保全型農業における新肥料の活用,農林水産研究ジャーナル,22,6-11

●高橋ら:2006,
 群馬県東毛地域における水稲全量基肥栽培専用肥料の開発,日作紀,75,82
-89

●高橋・吉田:2006,
 群馬県稲麦二毛作地帯における水稲育苗箱全量基肥栽培のプール育苗法に関する検討,日作紀,75,119-125

●高橋:2007,
 群馬県の早植・普通期水稲栽培における育苗箱全量基肥肥料を用いた連続栽培,農業と科学(印刷中)

 

 

肥効調節型肥料によるトンネルスイカの減肥栽培

千葉県農業総合研究センタ一
生産環境部 環境機能研究室
森 孝夫

Introduction

 千葉県のスイカ栽培は,栽培面積1,500ha,出荷量62,900tで,産出額が106億円と全国第2位(2004年度)を誇っている。一方,スイカ栽培では吸収量を大幅に上回る窒素を施用していることや通路への追肥などにより,土壌中に硝酸態窒素が多く残存する傾向がみられ,その窒素溶脱に伴う地下水の硝酸汚染が懸念される。

 農耕地に必要以上に施用された化学肥料や堆肥中の窒素による硝酸汚染を防止するためには,適正施肥の奨励などによって,施肥窒素量を削減することが必要と考えられる。施肥窒素量は,土壌診断に基づいて残存窒素を考慮した施用を行うことや肥効調節型肥料の利用や局所施肥によって,肥料の利用率を高めることで低減させることが可能である。

 ここでは,スイカトンネル栽培において環境負荷を軽減する減肥技術の確立を目的に,肥効調節型肥料を利用した効率的施肥法について検討した試験結果を紹介する。

2. Testing Method

(1)試験は千葉県農業総合研究センター(千葉市緑区)の露地圃場(表層腐植質黒ボク土,米神統)で行った。
(2)供試品種は,穂木が紅大(ナント種苗),台木にはユウガオ・FRダッカ(久留米原種育成会)を用いた。
(3)試験区及び施肥法
[平成16年(2004年)]
 試験では,基肥として肥効調節型肥料(リニア型70日タイプ,「エコロング424-70(14-12-14)」)及び現地で多く施用されている有機質入り配合肥料(「スイカ専用2号(5-7-8)」,窒素成分のうち有機態窒素1.5%)とを用い,それぞれに追肥の有無を組み合わせた(表1)。

 追肥にはいずれの区も燐硝安加里S555(15-15-15)を用いた。窒素減肥率は標準施肥区(千葉県主要農作物等施肥基準)の基肥15kg/10a,追肥10kg/10aの合計25kg/10aに対して50%一定とした。

 各試験区とも,基肥は定植5日前に全面全層に,追肥は交配直後に通路の表層に施用した。また,窒素吸収量から施肥窒素利用率を求めるために無窒素区を設けた。

 各区のリン酸及び加里は,ようりん及び硫酸加里を用いて標準施肥区と同量を施用した。なお,全区とも定植10日前に牛ふんオガクズ堆肥(現物窒素含有率1.0%)を2t/10a施用した。

[平成17年(2005年)]
 肥効調節型肥料を用いた全量基肥の体系で試験を行った。窒素減肥率は標準施肥区(総窒素施肥量25kg/10a)に対して30%,50%,70%の3水準とした(表2)。

 肥効調節型肥料には,前年同様「エコロング424-70」を用いた。標準施肥区は基肥(20kgN/10a)として,「エコロング424-70」と「こだわり有機匠」(4-9-2,窒素成分が全量有機態)を窒素比率で1対1に混合して施用し,追肥(5kgN/10a)として,NK化成C6号を用いた。各試験区とも基肥は定植4日前に全面全層に,追肥は標準施肥区のみ交配直後に通路の表層に施用した。リン酸,加里及び堆肥の施用,無窒素区の設定については平成16年と同様とした。

(4)耕種概要
[平成16年(2004年)]
 作型はトンネル栽培で,スイカ播種が1月26日,台木播種が1月30日,接ぎ木(断根挿し接ぎ)・鉢上げは2月18日,定植は3月24日に行った。整枝法は,子づる4本仕立て2果どりとした。栽植密度は,畦幅250cm,株間80cmの450株/10aとした。ベッド幅180cmの小型トンネルを使用した。収穫は交配後50~55日の6月16~21日であった。

[平成17年(2005年)]
 作型は前年と同じとし,スイカ播種が1月27日,台木播種が1月25日,接ぎ木(断根挿し接ぎ)・鉢上げは2月10日,定植は3月15日に行った。整枝法は,子づる3本仕立て1果どりとした。栽植密度は,畦幅250cm,株間60cmの666株/10aとした。ベッド幅180cmの小型トンネルを使用した。収穫は交配後50~55日の6月20~24日であった。

Results and Discussion

[平成16年(2004年)]
(1)交配後にどの程度結実したかの割合(着果率)は,いずれの区も43%程度(1株子づる4本に2果弱)であり,減肥による影響はなかった(データ省略)。
(2)収穫時の茎葉重は標準施肥区が2.1kg/10aに対していずれの減肥区とも同等かやや重かった。
 総収量及び上物収量は,被覆・追肥無区がもっとも多かった。平均1果重は,いずれの減肥区とも標準施肥区よりやや小さかった(表3)。
(3)品質では,中心部の糖度は区間差が小さかった。食味評価は区間差が小さいものの,肥効調節型肥料及び配合肥料とも追肥無区がやや高い傾向であった(表3)。

(4)スイカの窒素吸収量は,標準施肥区が8.4kg/10aに対して,減肥区では7.7~8.5kg/10aといずれも同程度であった。また,施肥窒素利用率は標準施肥区が12%に対して,減肥区では各区とも向上し,とくに被覆・追肥無区は25%と最も高かった(表4)。

(5)跡地ベッド部の土壌中硝酸態窒素量は,深さ0~60cmの各層とも,配合・追肥無区では標準施肥区と同程度であったが,他の区では標準施肥区に比べて20~40%少なかった(図1)。

(6)以上の結果,スイカトンネル栽培では,追肥の有無による生育及び収量に大差なく,追肥を省略できることが示唆された。また,追肥無区でみると,配合肥料は肥効調節型肥料と比べて跡地ベッド部の土壌中硝酸態窒素量が多く,環境への負荷が懸念された。

 これらから,肥効調節型肥料を用いることで全量基肥・追肥無で50%減肥しても,収量及び品質は標準施肥区と同等という結果が得られた。また,跡地土壌中の硝酸態窒素量も大幅に減り,環境負荷の軽減につながると考えられた。

[平成17年(2005年)]
(1)着果率はいずれの区も65%程度と子づる3本に2果の着果であり,減肥による影響はなかった(データ省略)。
(2)収穫時の茎葉重は,各減肥区とも標準施肥区と同等かやや重かった。総収量は,標準施肥区5.2t/10aに対して,減肥区では4.8~5.3t/10aとほぼ同等であった。また,上物収量は標準施肥区5.0t/10aに対して,減肥区では減肥割合が大きいほど減収する傾向を示し,被覆70%減肥区は4.0t/10aであった。平均1果重は,各減肥区とも標準施肥区と同程度であった(表5)。
(3)品質では,中心部の糖度は標準施肥区10.7%に対して大差がなかった。食味評価は標準施肥区と被覆50%減肥区でほとんど差がなかった(表5)。

(4)窒素吸収量は,標準施肥区9.7kg/10aに対して,被覆70%減肥区では同等となり,被覆30%減肥区及び同50%減肥区は約1.5kg/10a多かった。施肥窒素利用率は,標準施肥区の16%に対して減肥区では減肥割合が大きいほど高まり,被覆50%減肥区で44%,被覆70%減肥区で52%であった(表6)。

(5)跡地土壌中の硝酸態窒素量は,ベッド部では深さ0~60cmの各層とも,被覆30%減肥区が標準施肥区と同程度であったものの,被覆50%減肥区及び同70%減肥区は明らかに少なく,標準施肥区の31~39%にまで低下した(図2)。一方,通路部では,減肥区が各深さとも2mg/100g乾土以下であったのに対して,標準施肥区では深さ30~60cm層で6.1~9.6mg/100g乾土と多かった(図3)。これは,標準施肥区で通路部に施用した追肥が,降雨により下層に移動したためと考えられた。

(6)以上の結果,肥効調節型肥料を用いた全量基肥栽培の場合,30%減肥では土壌中の残存窒素量が標準施肥と変わらず,70%減肥では収量はやや低下した。一方,50%減肥では,標準施肥区並みの収量及び品質が確保でき,かつ跡地土壌中硝酸態窒素量を標準施肥の40%程度にまで減らすことができた。

 これらのことから,肥効調節型肥料を用いた全量基肥栽培では,50%減肥が適当と考えられた。

4. Conclusion

 スイカのトンネル栽培では,肥効調節型肥料を利用することにより,施肥窒素の利用率が高まり,大幅に減肥ができる。また,全量基肥にするため追肥を省略することができる。さらに,減肥によって跡地土壌中の硝酸態窒素量が少なくなることから,環境への負荷が軽減される。

 これらのことから,肥効調節型肥料を用いることによって,環境にやさしい農業の推進に寄与できる。